0人が本棚に入れています
本棚に追加
(ん、朝か…。朝? 俺は…寝てたのか?
ここは、何処だろう。…家か?う~ん。)
寝起きの男。 意識の覚束ない状態のその男は、状況を掴めないでいた。酒を飲み酔ったのか、仕事で疲労したまま帰宅し眠ってしまったのか、そもそも家から出ていないのかもしれないなどと様々な可能性を探ったが真意がわからぬまま寝たきりの意識を引き攣っていた。
(駄目だ、考えてもわからない。何か手掛かりとなる物はないか…。)
そう思いつつ男は自分の身体に手を伸ばし状況の足掛かりを掴もうと試みる。
(何かポケットに…。ん? ポケットがないぞ? いや、待てよ、ポケットどころか、これは服を着ていないのか?)
手のひらを伝うぺたぺたという感触から、男は自分が服を着ていないと感じた。
(何故だ、何故服を着ていない!
誰かに身包みを剥がされたか?だとしたら一体誰が?)
困惑と恐怖から暫く憶測のまま事実を野放しにしていたが、耐え消えなくなった男は遂に思い瞼を開くという事実確認を始めた。
ゆっくりと眼を開ける。眩い光が徐々に広がり、真意を男に伝えようとしている。
やがて両目が完全に開ききるとそこには、衝撃の事実が待っているのだった。
「なんだ?…これ。」
そこには、上半身を裸に剥かれ下着一枚というあられもない姿の自分が、鉄格子に自由を奪われているという姿が映し出されていた。
「なんだよ、この檻! 服も着てねぇし…!それにここ…俺の部屋か? 」
「なんなんだよ!
一体これは、なんの真似なんだよ!」
声を荒げるもそこにいるのは憐れな姿を晒した自分自身。質問に答える者は誰一人としていない。男は格子を掴み叫び続ける。返事が返らない事を知ってはいたがそうせずにはいられなかった。部屋の空虚は、それ程深刻なものだったのだ。しかし男はそれでも満たされず苛立ちが募った。この檻からどうしても抜け出したいと思った。だがその部屋で自分に出来る事は無かったので、男は檻を強く揺らした。格子を掴み、力任せに揺らそうとした。しかし檻はびくともしない。男はこの部屋だけでなく檻にすら、相手をされなかったのである。窮地に立たされた時、人は全ての者が敵に見えるなどと言われる事があるが、男は〝敵とすらみなすことができなかった〟のである。
男はそのやり場の無い怒りを、黒い檻へとひたすらぶつけた。気持ちが晴れる事は無いと知りながら…。
「ふぅ、ふぅ…。なんだってんだ。」
最初のコメントを投稿しよう!