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「なんだって俺がこんな目に…。」
ガタリ。
「…なんだ?」
何かの物音を察知する。その音は、偶然鳴り響く音とは違う。何かが動き、それに伴い鳴った音。男が感じたその音は、玄関が開き、何者かが入ってきた足音だった。
(来る、誰かがこっちに向かってくる…!
誰だ、これ以上俺に、何をするつもりなんだ!)
近づく足音、軋む床。足音と共に、何やらしゃかしゃかとビニールが擦れるような音を感じる。
(…?…この音、レジ袋か!
何を買ったんだ。いや、買い物なんかしてないかもしれない、何か物騒なものを隠し持っているかも…。)
様々な考えを施している内に、床を軋ませる音が消えた。どうやらもう既に、部屋の前に来ているようだ。
少し遅れて気付いた男は、焦る事すら追いつかず、唇を震わせて怯えていた。
(目の前に、誰かが…!)
冷たい汗が?を伝う。
静寂と恐怖が部屋中を支配する。男は姿を見ていないにも関わらず、これから部屋に入って来る者が自分を檻に入れた人物だと確信していた。潜在的な感覚が、そう判断していたのだ。
ガチャッ
ビニールが擦れる音と共に扉のノブに手を掛ける音が響く。
ガチャガチャガチャッ…。
(なんだ? 何度も扉を。)
ノブを幾度も上下させる侵入者。
「あっれ…鍵かかってる。出掛ける前にかけちゃったのかなぁ? 」
若い男の声だった。
「ん、いやでも内側から掛けるかなぁ?
まぁいいや、アレがあれば…」
ゴソゴソと何かを探っているようだが扉越しではそれを確認する事は出来ない。
(若い男…。俺の知っている男か? いや、男の知り合いは何人かいるが、黒い檻にぶち込まれる程の恨みは買っていない筈だ。だとすれば…誰だ?)
声の主を模索してみるも検討はつかず、その後もあらゆる可能性を探ってみたが男の思考は、とある音によって掻き消えた。
ガチャリ!
扉が開く音だった。考えていた声の主が、あちらから向かって来たのだ。
キィ。
「ふぅ~。自分で鍵掛けといて忘れるってどうかしてるね。でも10円玉で開いちゃう扉に鍵って意味あるのかな?」
入ってきたのは細身の青年。後髪が長く、前髪を一本垂らしている特徴的な髪型の青年は左親指と人差し指の間に挟むように十円玉を持っている。どうやらこの十円玉を鍵穴に刺し、ロックを解除したようだ。
「まぁ、しょうがないか。ね? おじさん」
馴れ馴れしく振る舞う青年に男は心当たりが無かった。
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