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「ん、何? どうしたの。 大丈夫、わかってるよ、お前なんか知らない、会った事も無いって言うんでしょ? 僕だって良くは知らない。なぜなら、あなたと僕は、最近初めて会ったからね。」
しゃがみ込み檻に顔をぐいと近付けて男に言う青年。男は後退りし距離をとろうとするも思うように足が動かない。始めはそれが恐怖や重圧によるもので体の動きが抑圧されていると思っていたが、実際は異なるものだった。男の足には鎖と共に大きな鉄球が繋がれていた。
「なん、だこれ、足に…鉄の球?」
「はぁ~ん。今頃気付いたんだぁ、遅過ぎるよ、ちょっと。それ昨日の夜から付いてるんだけどなぁ…。」
男は必死に足の枷を外そうとする。
「あーあぁ、駄目駄目、無駄だって。それ誰が付けたと思ってんの。…まぁ改めて言うと僕なんだけど、だとしたら外せるのも僕の筈でしょ? 付けられた側が外せるわけないでしょ~?」
足枷を付けた事をいとも簡単に認めたあげく舐めたような態度をとる青年に苛立ちを覚えるも檻の中で手も足も出す事の出来ない正に井の中の蛙である自分を悔やむしかなかった。
「しどろもどろしちゃてぇ。
ん、しどろもどろ? それで合ってるんだっけこういう場合。ねぇ、僕言葉の使い方合ってる?」
軽薄に問いかける青年。その場を茶化しているのか、男を貶しているのか、そもそも意味などないのか、掴み所の無い青年の言動は只々檻の中の男を苛立たせる。
「まぁ間違えて使ってたとしてもあんまり使い道ない言葉だよねぇ、しどろもどろなんてさ。普段使う言葉じゃないよね?」
「……」
「え、何? 無視? 無視ですか?
無視かぁ~、寂しいなぁ。せめて返事しようよ、ね? 返事!」
「……」
文句を言われようと頑なに口を閉ざす男。言わ猿と覚悟を決めた眼光鋭いその男の顔に敵わんと、頭を抱え青年は溜息を漏らす
「はぁ…。わかった、わかりましたよ。僕の話を聞く気は無いんですね?
…ならば僕が聞きますよ、あなたの話を」
「……」
「何、その顔。
急に言われても何話していいかわからないって? 我が儘だなぁ。なんだっていいんですよ、昨日あった話とか、ペットの話、スポーツや趣味の話。まぁなにも無ければ…僕への質問とかね。」
男は暫く黙っていたが、青年の最後の一言を聞いて、口を開く。
「…何故俺に、こんな事をした。」
「こんな事って?
色々ありすぎてわかんないよ。」
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