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「閉じ込められた人は刃物でメッタ刺し、真っ黒な檻が返り血で赤く染まっている事から犯人は〝赤檻の悪魔〟なんて呼ばれてる。」
「赤檻の…悪魔…?」
犯人の奇怪な呼び名に顔を強張らせる男。
「ちょ、ちょっと待て!
なんで君はそんなに詳しいんだ!そんな得体の知れない通り魔の〝別名〟まで知っているなんて!」
焦り顔で問いかける。
「何で知っているって、知らない人の方が少ないでしょ。テレビで毎日の様に報道してるよ?もしかして、あまりテレビ観ない方?」
「…?…そうか。」
男はテレビを普通に見ていた。寧ろニュースなどの報道番組は念入りに観る方であった。今起きている出来事や物事、天気に至るまで入念に拝観していた筈なのだが、なぜか通り魔の事件は把握していなかった。
「やっぱり知らなかったんだ…。まぁいいや、話を始めに戻して再度聞くんだけど」
そう言って青年はリモコンを取り出し、テレビ画面を歪ませていく。映像が、徐々に過去の映像へと立ち戻っていく。
「これは、録画映像でね…いつでも観れるようになってるんだ。まぁその時点で、僕は普通より事件に関心がある事になっちゃうんだけど、それには少し訳があってね」
映像の歪みは止まり、先程見ていた映像が再び写し出される。
「さっき僕は聞いたよね?
とある事をさ。」
青年は流れ出した映像をある瞬間で止めた
「これ、この被害にあった女性の名前。」
青年は画面に静止画で写し出される女性の名前を指差して男に見せる。
「通り魔事件の、被害者か?」
「御手洗 麻美」
「この娘僕の…妹なんだ。」
「なっ…!」
男の背筋に衝撃が疾る。録画する程事件に固執する理由、そして青年から感じた根拠無き狂気の意味が、その一言により理解する事ができた。
「お兄さん、改めて聞くけどさ…この娘の事、知ってるかな…?」
こちらを振り返ったその顔は笑顔だった。しかしそれは乾ききった、絶望を具象化したような笑顔。狂気を超越した、負の表情であった。
「知、知らないよ。…悪い。」
男は声を出し絞った。口の中の水分が汗と化し、下を向きぜぇぜぇと息を切らす。それ程青年の負の表情は恐怖を帯びていた。
青年は暫くこちらを見ていたが、やがて向き直り天を仰ぎ始める。その頃にはもう、テレビの画面も消えていた。
「知らない…そうですか。」
震えた声で呟く青年。
「…悪い。」
男はそれに、唯謝る事しかできなかった。
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