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男の様子を容認したのか、青年は小さく口を開き、妹の話を始める。
「一人暮らしを始めたばかりだった…。特別な夢なんかを持っていた訳では無かったけど、一人暮らしをしたいと日頃言っていましてね。学校を卒業して、就職をし、念願の一人暮らし…まぁそういう意味では、夢は叶っていたんでしょうね。」
特に何の事は無い身の上話、だが何故かその話は、どんな話よりも、薄暗く哀しい、悲劇のように聞こえた。
「そんな折に、僕の妹は…!」
奥歯を噛み締め軋ませる青年。
「僕は独自に捜査を進めました。犯人の手口、目的、報道をされれば、直様録画し、隅々まで見渡した。警察に、情報に得たりもした!
しかし結局…犯人は見つからない。それどころか目的や、志向さえもわからない…」
「……」
(気の毒だ…。そう言ってしまえば、それで済んでしまうのかもしれない。だがそれで済ませるには、余りにも酷過ぎる。)
「妹さんを殺めた者が捕まる事を、心から願ってるよ…。」
その場凌ぎではなく、男の心からの言葉だった。
「…僕ね、捜査をするにつれ思ったんですよ。犯人なんて最初から、いなかったんじゃないかってね。」
「犯人がいない?」
「ビリーミリガンって知ってます…?」
「ビリー…ミリガン?」
「ミシガン州で起きた連続暴行事件の犯人ですよ。現場には彼の指紋がはっきり残っていて、それが証拠となり逮捕された。
逮捕された後、彼は記憶が無いと容疑を否認した。初めは皆言い逃れる為の嘘だと思ったけどどうもミリガンが嘘を付いている様には見えない。そこで彼に精神鑑定を施してみる事にした。」
「精神、鑑定…。」
男はその奇妙な話に深く聞き入っていた。
「そしてそこで鑑定の為に面会した精神科医にミリガンはこう言ったんだ。」
「僕はミリガンじゃない。」
衝撃の一言だった。
「今ここにいる僕はデービットで、ミリガンは中で眠っている…ってね。」
「二重人格か…!」
「ミリガンはその他にも多数の人格を持っていて、その数は24種類にも及んだといいます。」
「24…。」
内容には驚いたが、青年がこの話をする意図を掴めない。
「それが、一体どうしたってんだ?」
問われた青年は息を吐き、静かに答える。
「ふぅ、まぁ僕が言いたいのは、人殺しやその他の犯罪を〝無意識的〟に行っている人もいるって事ですよ。…まぁ、人格が何重もあるなら意識はあるんでしょうけど」
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