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青年は檻を蹴り続ける。脚よりも硬いその檻を青年の脚は、揺らしている。中の男は転げまわり、蹴られては倒れ痣をつける。それでも頑なに口を開けなかった。いや開けられなかったのか。
「はぁ、はぁ…。悲鳴ひとつあげないなんて根性あるね。普通痛がるよね、おちょくられるだけの部屋の中ならさ。」
「……違う。」
「…何?」
「この檻は、人を痛めつける為のものじゃない。」
「……?…」
「中に閉じ込めた人を、よく観察する為のものだよ…」
青年に狂気が反射する。
ガチャリ。
「ふぅー。」
檻から出て、伸びをする男。
「鍵を…開けたのか?」
「当たり前だろ。
誰が仕掛けたと思ってる?」
青年は言葉が出ずに呆然としている。
「君、御手洗昭一くんだっけ?」
「僕の名前まで知っていたのか!」
「知らない訳ないだろ、全部知ってるよ。君の名前も、君が僕をずっと追っていたのもね。」
「…やはりお前が、妹を…!」
「妹さん以外も…だよ。」
「いつから僕がお前を追っていると知った?」
「最初からだよ。」
「最初から…?」
「というより、君を観察する為に、妹さんを殺したんだけどね。」
「…何?」
「君は妹さんを殺される前から事件に関心があった。それはまぁ必死に調べてたね。犯人の趣味趣向、動機、手口に至るまで。」
さっきまで檻に入っていた虚弱な男が、今は悠々と言葉を垂れている。青年には整理のつかない事態だった。
「まぁ、これもいい機会だ。気になっていた事をお話ししよう。」
「…!」
「驚くか、まぁそうだろう。安心していいよ、きちんと話すから。そうだな、先ずは手口の説明をしよう。君は疑問に思っていたね、家から出てきた被害者を、何故また家に戻し、檻に入れるのか…。檻に入れる理由は先程言ったね、よく観察する為。何をどう観察するかは今はいいだろう。そして、家に戻す理由は、見られたくないからだよ。」
「見られたくない…?」
「そう、見られたくないんだ。」
「僕だけの…観察物をね。」
〝こいつは異常だ〟そう思った。
「死ぬ前の人間という対象物は、とても面白い代物だ。それを他の人に見られるのは嫌なんだよ。それが例え、生きていたとしてもね。」
青年は震えた。先程まで相手に与えていた狂気が自分に降りかかるのが怖ろしてたまらなかった。
「あとはぁ、動機か。まぁ動機に関しては、君に対してのって事でいいかな?」
「僕を殺す…動機?」
男は青年を殺す理由を語る。
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