あの夏に置いてきたもの

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きっかけは多分、昨日見つけたシャツ。 こっちに来た時に着ていたもので、気に入ったデザインだったのだけど全然着れなくなっていた。 単純に、体を使うようになって、それなりに鍛えられていたってだけだ。 それはわかっている。 だけど、急に理解してしまったんだ。 もう、きっと、元の世界には帰れない。 落ちたのか流されたのか呼ばれたのか渡ったのか、知らない。 けどオレは間違いなく生まれた世界から離れた。 あの時に焦ればよかったのかもしれないけど、オレは焦ることすらできなかった。 今までぬくぬくとトバとサファテに守られてきた。 妹の本棚になった本の、チートな主人公たちのように、もがいてあがいて劇的に何かをしたわけじゃない。 ただ淡々と日常を送っていた。 そして淡々と日常を送っていた分、確実にこっちの世界に染まっていってしまって、あのころとは全く別のオレになっている。
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