あの夏の夕方

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異世界トリップ。 見知らぬ場所に立ち尽くしていた時に、浮かんだのはその言葉だった。 見た目可愛いのに残念な趣味を持つ妹が、ずらりと本棚に並べていた本のなかにそんな内容がいくつかあった。 そうか。 オレは世界を渡ったのか。 妙に冷静にそう思った気がしたけれど、多分その時点で大いにパニくっていたんだろうと思う。 だってそのあとしばらくのことは、カスミがかかったように朧気にしか思い出せない。 テンプレかよといいたくなるくらいにわかりやすく、剣と魔法が生きていて魔物がいて、世界のどこかには魔王がいるらしい。 オレの感覚でいうと、ヨーロッパの百年戦争あたりの感じ。 それかあれだよ、Dのつく超有名なRPG。 オレはギルドに拾われた。 オレの名前を正確に呼ぶこともできない、お人好しなギルドマスターのトバを保護者に得た。 言葉はわかった。 妹の趣味のおかげで、無駄に持っていた知識をもとに、オレは交渉を繰り返した。 科学の知識を対価に、ねぐらと日々の糧を手にできた。 幼稚園児のころから十五年、趣味で続けていた剣道をいかして、冒険者になった。
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