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◆さざれね
小さいころのこと。ある夜中、なんの前触れもなく目が覚めた。
あたりはまだ真っ暗で、枕もとの時計は二時を指している。特に寝苦しかったり、喉が乾いたりしたわけでもない。内心首を傾げつつ、ベッドの上で寝返りを打ったとき。
…………しゃら―――……ん……
闇の中、澄んだ音がした。甲高い金属の響きが、いくつも重なり合ってこだます。きれいだな、と素直に思った。
始めはどこか遠くから、かすかに聞こえていた音は、少しずつはっきりしているようだった。
……しゃら―――ん……
おそるおそる外をうかがうと、家の前の坂道がぼんやり明るい。複数の人影が、なにやら紋の描かれた提灯を持って歩いていた。
けっこうな人数で、列の中ほどに大きな桶を担いだ二人組がいる。少し先には僧侶だろう、夜目にもくっきりと丸い頭が見えていて、たくさんの輪がついた杖を振っていた。
しゃら―――――ん……
なるほど、あの音か。坂の上には寺があるから、その行事だろう。夜中なのにお坊さんて大変だな。
現金なもので、ほっとしたとたんにまぶたが重くなる。細くあけたカーテンを閉める間もなく、すとんと眠りに落ちていた。
「――ってことがあってね。まだ小学生だったし、はっきりとは覚えてないなぁ」
あんまり怖くなくてごめん。そう言って、久しぶりに会った友人は頭をかいた。モノ書きの習性で『夏だし何か怖い話ない?』と聞いた私に応えてのことだ。
「いや、音だけするって十分怖いよ。普通に人がやってるってわかってもさ」
「うーん、それがね? 実はそれ見た次の日、坂の下に住んでるおじさんが亡くなって」
「…………、はい??」
フォローしたつもりの言葉に、不穏な単語が飛び出した。思わず固まった私をおいて、友人はさくさく後日談を語りだす。
「お葬式に行ってびっくりしたなぁ。家の外にあった提灯の模様が、前の夜に見たやつとおんなじでね」
いや、ちょっと待て。
「あとでよくよく聞いたら、坂の上のお寺って普段は無人なの。そろそろまずい、って分かってれば別だけど、おじさんは急死だったから前の日まで誰もいなかったらしくて」
まじか。
「じ、じゃあその、前日夜の行列っていうのは……」
「うちのおばあちゃん曰く、ご先祖がお迎えに行ったんだろって。おじさん家は昔から檀家さんだったし――」
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