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俺は屋上に来ていた。
ジャケットを脱ぎ、白手袋を脱ぐ。
執事の格好というのも、なかなか堅苦しい。
しばらくここで涼んでいこうかと考えていると、
ポケットの中の携帯が震えた。
相手は、瀬戸だった。
―今、どこにいる?―
―屋上―
そのやり取りの数分後に、瀬戸がやってきた。
「お疲れ」
「お疲れ様」
「よく抜けられたな」
「朝からずっとだから、10分だけ休んでもいいって」
笑顔で挨拶する瀬戸。
こういうときくらい、笑顔を作らなくてもいいのに。
ま、無意識なんだろうけど。
瀬戸は、フェンスに寄りかかっている俺の横に来る。
「高いところダメなんじゃねーの?」
「なんか・・・橘に色々されたら、慣れた」
嘘つけ。
極力下を見ないようにしてるくせに。
そんな瀬戸は、ポケットからパックのジュースを取り出して、飲む。
「このジュース、ありがとう」
「・・・・・・おう」
そのジュースはさっき瀬戸に近づいたときに、周りに気づかれないようにポケットに入れてやったものだった。
俗に言う、差し入れってやつだ。
「い、今ヘトヘトになって、夜なにもできなかったら困るからな。ま、それでもヤるけど」
「・・・・・・なにもしないくせに」
「あ?」
「あはは、なんでもないよ」
瀬戸は笑いながら言う。
俺の気のせいかもしれないけど、その笑顔は
バカな女たちの前で見せていた、ガチガチの笑顔とは・・・少し違った。
どこがどうとは説明できねぇけど。
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