8人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆるくパーマのかかったピンクに近い焦げ茶の髪に、少し幼く見える目のパッチリした、所謂草食系イケメンが真っ昼間から一人で何を泣いているのか。
ブレザーの襟の学年カラーの校章バッジを見る限り、同じ1年のようだ。
「大丈夫か?」
こんなところで泣いていたのも何か理由があるんだろう。よくわからんが、なんとなく手を差し出した。
あれ、俺昼寝する場所探してたような気が。まぁいいか。
弱々しく握り返された手を思いっきり握って引っ張り上げる。案の定勢い余ってよろけていた。
思ったより身長でかいな。
そしてまた目をぱちぱち。なんだお前、俺よりでかいのになんでそんな小動物みたいなんだ。
思わず吹き出していた。
困った。なんだか無性に構いたくなる奴だ。きょとんとこちらを見つめる顔は、子犬のようにも見えてくる。
弘織と燵臣にも会わせてぇな。
「名前は?」
「あ、奈知、圭介」
「なち、ね」
下の名前の方がいいか、と聞くと、眉間に皺を寄せて少し険しい表情になった。
詳しいことは知らんが、ただ、奈知にそういうカオは似合わないなと思った。
パシッと軽く奈知の腕を叩いて、こちらに注意を向けさせ、言う。
「片山健司。1年な。俺は健司でいい」
「…健司、くん」
「やめろやめろ!君づけは」
鳥肌立つわ!と言いながら本当に鳥肌が立ってきたので、思わず両腕を擦って温めた。
「じゃあ…、健司」
「ん。じゃあ教室戻るぞー」
少しうつ向きながら、ちらっと視線だけこちらに寄越して照れたように名前を呼ぶ。
なかなか人に懐かないわんこが、俺にだけ腹を見せてくれたような嬉しさの反面、妙な気恥ずかしさもあった。
先に歩き出し、少し歩いたところで立ち止まって後ろを振り返ると、自分の右腕をぎゅっと握りながら、奈知が嬉しそうに笑っていた。
(泣いてるより、断然そっちのほうが似合うな)
兄弟はいないが、きっと弟がいたらこんな感じか、なんて思いながら、奈知が追いつくのを待って、並んで教室に向かった。
END.
最初のコメントを投稿しよう!