なちとけんじの出会い

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ゆるくパーマのかかったピンクに近い焦げ茶の髪に、少し幼く見える目のパッチリした、所謂草食系イケメンが真っ昼間から一人で何を泣いているのか。 ブレザーの襟の学年カラーの校章バッジを見る限り、同じ1年のようだ。 「大丈夫か?」 こんなところで泣いていたのも何か理由があるんだろう。よくわからんが、なんとなく手を差し出した。 あれ、俺昼寝する場所探してたような気が。まぁいいか。 弱々しく握り返された手を思いっきり握って引っ張り上げる。案の定勢い余ってよろけていた。 思ったより身長でかいな。 そしてまた目をぱちぱち。なんだお前、俺よりでかいのになんでそんな小動物みたいなんだ。 思わず吹き出していた。 困った。なんだか無性に構いたくなる奴だ。きょとんとこちらを見つめる顔は、子犬のようにも見えてくる。 弘織と燵臣にも会わせてぇな。 「名前は?」 「あ、奈知、圭介」 「なち、ね」 下の名前の方がいいか、と聞くと、眉間に皺を寄せて少し険しい表情になった。 詳しいことは知らんが、ただ、奈知にそういうカオは似合わないなと思った。 パシッと軽く奈知の腕を叩いて、こちらに注意を向けさせ、言う。 「片山健司。1年な。俺は健司でいい」 「…健司、くん」 「やめろやめろ!君づけは」 鳥肌立つわ!と言いながら本当に鳥肌が立ってきたので、思わず両腕を擦って温めた。 「じゃあ…、健司」 「ん。じゃあ教室戻るぞー」 少しうつ向きながら、ちらっと視線だけこちらに寄越して照れたように名前を呼ぶ。 なかなか人に懐かないわんこが、俺にだけ腹を見せてくれたような嬉しさの反面、妙な気恥ずかしさもあった。 先に歩き出し、少し歩いたところで立ち止まって後ろを振り返ると、自分の右腕をぎゅっと握りながら、奈知が嬉しそうに笑っていた。 (泣いてるより、断然そっちのほうが似合うな) 兄弟はいないが、きっと弟がいたらこんな感じか、なんて思いながら、奈知が追いつくのを待って、並んで教室に向かった。 END.
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