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あの時、目の前にヒーローが現れたんだって思ったんだ。
side.奈知圭介
「あ、けんじーー!」
登校中、正門を入ってすぐのところで、正面玄関に向かう背中を見つけ、嬉しくて大きな声で呼び掛けた。
ぶんぶんと音がしそうなほど大きく手を振ってアピールしながら、同時に走り出す。校舎に消えていく後ろ姿を見失わないように見つめながら。
「おー、奈知(なち)、はよ」
「うん!けんじ、おはよー」
下駄箱で上履きに履き替えていた健司に追いつき、後ろから抱きつく。
肩から前に腕を回すと、185cmのおれより10cmほど低い位置にある頭は、ちょうど鼻あたり。シャンプーのいい匂いがする。
「奈知、おはよう。相変わらずだな」
苦笑いしながら挨拶してきたのは、相賀弘織(おうがひろおり)、健司の幼なじみ。健司の名字が片山だから、同じクラスなら大体前後になるんだって。羨ましい。
隣でペコって頭を下げたのは奥山燵臣(おくやまたつおみ)、弘織の仲良し。いつも甘いものを持っていて、おなかが空くと分けてくれる。優しい。
「おはよー、ひろーりとたつおみ」
健司と弘織はお家が近いので大体一緒に登校してくる。燵臣はたぶん途中で合流しているのだと思う。
おれは週の何回かは陸上部の朝練があるので、こうして玄関で健司に会えるのは珍しい。
だからすごく嬉しくて、ついにこにこしてしまう。
「奈知ー、履き替えないと置いてくぞ」
いつの間にか、するりと腕から抜け出していた健司は、一歩先の廊下に立ちニヤッと笑う。その表情が、少し赤っぽい短い髪と、男前な顔立ちによく似合っていて。…かっこいいんだよなぁ。
「…奈知ー?」
「…あ、やだ!行く!」
弘織が顔の前で手をひらひら振ってくれたおかげで我に返り、慌てて靴を脱ぎ上履きに履き替えられた。
(不意打ちであーゆうカオするんだもんなぁ)
健司はずるい。
誰にでも優しいわけじゃないのに、たまにすごくかっこいい。それは、顔だけじゃなくて行動もとても男前なのだ。ほんとに、ヒーローみたいに。
(あの時も、そうだったなぁ)
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