けんじとなちの出会い

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高校1年の春。いや、もうすぐ夏になろうというよく晴れた日。 おれは泣いていた。 (うぅ…どうしようどうしようどうしよう) おれはオンナのひとが怖い。話しかけられるとうまく息が出来なくなって全然喋れなくなる。苦しくて、いつも逃げ出してしまうのは、本当は相手に失礼だってわかっているけど、どうしても体が震えてしまうのだ。 今日も、たぶん先輩(怖くて話ちゃんと聞けなかった…)と思われるオンナのひとに呼び出されて、怖くて逃げたかった。だけど「来て」の言葉を断れなくてついて行ったら、「付き合おうよ」って腕を組まれそうになって、びっくりして咄嗟に肩を押し返して「ごめんなさい!」って走って逃げてしまった。 話しかけられるだけでも苦しいのに、触られたりしたら倒れちゃうんじゃないだろうか。 おれは、オンナのひとを好きにはなれない。 必死で走って、校舎から少し離れた武道場らしきところの陰に隠れて蹲る。 呼び出されたところが中庭でよかった。校舎の中を走ってたら、他の生徒にぶつかったり先生に怒られたりしてたかもしれない。 両膝を抱え込み腕に顔を埋める。はぁーーーと大きく息を吐き出したら、少しだけ気分が落ち着いてきた。 (やっぱり男子校にすればよかった…!) 落ち着いてきたら、今度はちょっとだけ涙が出た。 "家から近い高校"が進学の条件で、ほんとは男子校に行きたい、なんて言えなかった。 家の近くの男子校は、公立も私立も頭の良いところばっかりで、おれの頭では全然手が届かなかった。通学に2時間近くかかる学校ならおれでも入れそうなレベルもあったけど、お母さんが「大学生や社会人になったら、嫌でも家から離れちゃうんだから、圭ちゃんが高校生のうちはできるだけお家の近くにして!」って譲らなくて、結局共学の普通科高校に入ることになった。 普段のお母さんは怖いと思わないけど、あの時のお母さんはちょっと怖かった(駄々をこねた子どもみたいでもあったけど)。 でもこんな思いをするなら、やっぱり少し遠くても男子校に行けばよかった。 (うぅ、帰りたい…) なんだか悲しくなってきて、本格的に泣けてきた。まだ高校生活は始まったばかりなのに、こんな調子で3年間続けていけるのか不安になる。 ずっとこんな風に、何かに怯えて生きていくんだろうか。
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