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突然おれの目の前に現れたヒーロー。
かっこよくて男前で、目力が強くて、少し怖い印象がある健司。でも笑うと表情が柔らかくなって、そんなところは可愛くもある。
おれの方が身長は大きいけれど、健司はかっこいい憧れのヒーローそのものだった。
「…へへ」
この高校を選んでよかった、ってあの時初めて思えたんだ。
「何ニヤニヤしてんだ、奈知」
「ふぇ?」
廊下を4人で歩きながら教室へ向かう。1年前のことを思い出していたら、自然と顔が緩んでいたらしい。
健司が意地悪な笑顔で覗き込んでくる。そんな顔もかっこよく見えるんだから、困ったものだ。
「健司はやっぱりかっこいいなって」
「はぁ?」
「ふふふ」
急に何言い出すんだ、って顔で健司は首を傾げた。弘織も苦笑いをしている。
ただ、燵臣だけは、大きいけど少し吊りぎみの目をにっこりと細めて、「そうだな」って言ってくれた。
2人で顔を見合わせて笑い合う。
「……だって、おれのヒーローだもん」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟く。
なんか言ったか?と、少し先を歩き始めた健司が聞いてくるけれど、なんでもなーいと誤魔化した。
あの時から健司はおれのヒーローで、きっとあの時からずっと、おれは健司に片想いしている。
(健司は、おれのことどう思ってるのかな)
なんて、そんなこと考えてもおれにわかるわけないんだけれど。
(…今は、この関係を崩したくない)
健司と同じクラスになって、1年の時より一緒にいられる時間が増えた。
その分、健司の男前なところも横着なところもお茶目なところもかっこいいところも、いっぱい知ることができた。
だから、今は健司と一緒に過ごせる時間をめいっぱい大切にしたい。
教室のドアをくぐる。
先に席についていた健司が大きく伸びをした。
そのまま腕を前に持っていき、机に突っ伏すように顔を伏せる。
来て早々寝る姿勢を取る姿が健司らしくて少し笑った。
おれも荷物を置いて席につく。
始業を告げるチャイムが鳴った。
Side.奈知圭介
END.
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