1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
飛び降り自殺
私はビルの屋上から飛び降りた。
つくづく生きているのが嫌になり、死んで何かをかも終わらせたかったからだ。
よくいわれるようにそれまでの一生が走馬燈のように再現されるなどということはなかったが、時間の感覚が急激に引き延ばされ、アスファルトの地面が近づいてくるのがはっきりわかる。
と、地面と私に間に何か黒いものが割り込んできた。おそろしく短い時間だったが、それが何であるかはわかった。
人間の頭頂部だ。全体を長い髪で覆われており、おそらく女だろうということまでわかった。
しかし、私の身体が落下していくことはもちろん私には止められず、短くも無限にも感じられる時間の後、私は彼女と激突した。
気づいた時には、ふたりともアスファルトの上に転がっていた。
転がった二つの死体を、私は上から見下ろしていた。
どれくらいの高さなのか、生きていた時の私の背丈よりかなり高いだろう。
自分の死体だったが、頭から女性の頭にもろに激突したらしく、大きくぱっくり頭蓋骨が割れて血が混じった脳漿があちこちに飛び散っている。
女性の死体も似たようなものだった。頭も顔面も大きく損傷し、どんな顔だったのかもわからない。
と思ったら、ぐいと女の顔が私の目の前に突きつけられた。
女の姿も宙に浮いていた。
砕けて死んだ顔と、生前のそれなりに整った、美人とまではいかないが普通の顔とが交互にだぶって現れる。
ただ、共に恐ろしい痛みと怒りとで激しく歪んでいたため、どちらもさほど違いはなかった。
「なんで」
女の声が直接私の頭、というより心に響いた。
「なんで私を殺したの」
女の痛みと怒りと恨みは未来永劫、失われることはないだろう。
私も、もはや死んで何もかも終わらせることはできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!