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伊藤さんは、僕が思っている以上にてきぱきと動いてくれて、僕は伊藤さんの力を過小評価していることに気付かされた。
僕が考案したのは、ミリ波レーダーとシングルカメラの組み合わせで、建物の壁や脇道に止められた車に隠れている人を検知することができることがメリットだ。
人の検知の精度は飛躍的に向上したけれど、今一つ人までの距離の精度が出なかった。
僕は、この点に関して何か良い方法はないかと考えていたけれど、なかなか名案が浮かばなかった。
そんな時、ふいに伊藤さんが声をかけてきた。
「若林さん、人までの距離が不正確なのは、シングルカメラだからなのではないですか?
人に目が2つあるのは、距離感を測るためですよね!
片目をつむると、近くでも距離の間隔があやふやになった経験があります。」
僕は、伊藤さんの発言に心を動かされて、
「伊藤さんの言うとおりだね!
さっそくデュアルカメラにして実験してみたいんだけど手伝ってくれますか?」
と発言すると伊藤さんは、
「はい、喜んで!」
と言って、さっそくカメラをもう一台用意してくれた。
なかなか2つのカメラのピントが合わなくて苦労したけれど、何とかピントを合わせることができると、物体への距離の精度が飛躍的に向上した。
この場合、製造コストが高くなることがデメリットだとは考えたけれど、今回の試作品の発表では、コストよりも人を検知する精度を飛躍的に向上させたことを前面に打ち出そうと判断した。
僕が伊藤さんに、このことを話すと、伊藤さんも納得してくれたようだった。
何とか試作品が完成し、発表するためのプレゼン資料も整った頃には、夜が明けて辺りは明るくなってきていた。
「伊藤さん、協力してくれて本当にありがとう!
土壇場で伊藤さんの名案があって、良い試作品が完成したよ!
これで、明日のプレゼンは頑張ってみるよ!」
伊藤さんも満足した表情をしていた。
「はい、そうですね!
あとは若林さんのプレゼンに期待してます。
でも、プレゼンは明日ではなくて今日ですけどね!
もう朝ですから!」
徹夜明けで疲れていたけれど、伊藤さんの笑顔で、僕は何故か元気になれたような気がした。
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