ある日の電話

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「俺だよ、久しぶり」  スマホに電話が掛かって来た。液晶画面には『番号表示不能』というメッセージが出ている。 「俺っていったい誰よ」  オレオレ詐欺なんかに私が引っかかるわけもない。私は老人なんかじゃなくて花の女子大生、青春を謳歌中だ。 「俺のこと、忘れたのかよ」  じめじめとひがみっぽい声だ。聞いているだけでいらついてくる。 「だからいったい誰なのよ、イタズラなら切るからね」  私はうんざりした声を出した。メイクもばっちり、オシャレもばっちり、これから家を出て蒼汰とのデートの待ち合わせ場所に向かおうとしていたところだ。蒼汰は私にめろめろで、私の言うことならなんでも聞いてくれる。 「あんまりだな。俺のことを忘れるなんて」  聞き覚えのない声だ。悪戯電話に付き合っている暇なんてない。電話を切ろうとして、相手の次の一言に手を止める。 「ダンゴムシを食ってやっただろ。お前たちが弁当にいれたやつをさ」    ま、まさか。  私は危うくスマホを取り落としそうになる。 「ははっ、やっと思い出したってか」  鼻で笑う声が響く。
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