再会は赤い七竈のもとで

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「父や兄に無理強いされたのかもしれないし、焦ったのかもしれない。コーネリアス、内密にしていたが、おまえの立太子の日取りも決まったことだし」  それは晩秋だという。初耳だった。 「義父上……」  王に、愛した子供の背信に衝撃を受けた様子はなかった。この日が来ることを、彼は知っていたのだ。世界の絶望のすべてを肩に背負ったような風情で、節くれ立った手指で顔を覆い、たった今自分を殺そうとして返り討ちにあったセオフィラスの姿を見ようとも、それをしたコーネリアスの声にならない問いに答えようともしなかった。彼には息子のまなざしを受け止めることができないのだ。その重みに耐えるには、彼は年をとり、もろくなりすぎていた。それはコーネリアスが初めて見る、王の人間らしい弱い一面だった。  血溜まりの中にうずくまる見慣れた赤の髪が、やがて自らの血を吸って黒くこごる。その光景は、全く現実感がなかった。昨日まで手に取るようにわかったセオフィラスの心が余りにも遠い。コーネリアスは、そんな信頼関係など元々無かったのだと言われれば、頷いてしまいそうなほどの混乱の波に襲われる。 「なぜ」  記憶の中の若葉色に問う。  彼の血に濡れた服が、彼の命が遠のくのを知らせるように冷えていく。 「なぜ……」  応えは永遠に、あるはずもない。
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