再会は赤い七竈のもとで

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再会は赤い七竈のもとで

 毎年野山が色づき始めると、老王コーネリアスはひとり、霊峰、ギルスの山に登る。  供や護衛は付けぬ。馬も麓の樹につなぎ、その後は自らの足で、砂礫の道を一歩一歩踏みしめ進む。頂には万年雪を冠する峻厳な山だが、秋の始まりのこの季節、中腹あたりであれば、命あるものにそこまで冷淡ではない。  登ればのぼるほど風は切れ味を増し、世界そのものの色合いは澄んで鮮烈になっていく。以前なら目もくれなかったであろう、うずくまり、健気に咲く竜胆の青を美しいと思うような歳月を、彼は重ねてきた。若いころは武烈王などと綽名され、内乱の平定から遠征まで、馬にまたがり、地に降りる暇もないほど、平原を駆け巡ったその頑健な体も、国と民の安寧と引き替えに、今は年相応にくたびれ、軽い負荷にも疲労を覚える。  自身の衰えに、王が自嘲に似た吐息を漏らすころ、それは見えてきた。目に痛いほどに赤く色づく七竈と、その下にひっそりと建つ古い墓石。  本来ならば下に眠る人物の来歴や功績が丁寧に刻んであるはずのそれには、これだけ彫ってあることを、王は知っている。 『セオフィラス・ウェステルレイン 大罪人の前に、天の国の門は永劫閉ざされる』  王は墓前に立つと、持ってきたいびつな酒壷の栓を抜き、血の色をした酒を、その上に惜しみなく注いだ。   
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