星降る夜

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 行儀よく、しかしものも言わずにせっせと食べるアラクセスを、ミュラクは一番の好物である、特別甘くしたトルクを口に含んで転がしながら見ている。その喉がこくりと鳴った。 「食事をともにするのは初めてだが、お前は存外よく食べるのだな」  意外そうなミュラクに、アラクセスは食事の手を一瞬止めて答える。 「さあ。私たちの年頃の男は、皆、こんなものではないでしょうか。あなたは食が細すぎる」  よく食べてください、というアラクセスの言葉に、ミュラクは、頬のあたりを照れたようにひきつらせ、再び木の匙と器をとって、スープを口に運び始めた。  アラクセスはやがて、パンの最後のひとかけらを飲み下して、少し行儀悪く、手の甲で口元を拭った。 「よく学び、よく鍛え、強い男になって、あのような人間の言葉など蹴散らしてしまうことです」  唐突な言葉に、ミュラクは目を丸くした。 「あなたが、誰にも付け入る隙のない、お父上自慢の優秀な息子となれば、噂好きな連中の口もつぐまれるでしょう」  ミュラクはやさやさした顎で必死に噛んでいたパンを飲み下して、少しばかり肩を落とした。 「僕は、……体が弱いし、色々なことが得意ではないから」  ミュラクらしからぬ、しおらしく弱気な言葉が、今はもどかしい。これを機に彼の向上心を刺激してやろうと思ったが、ミュラクは想像以上に弱っている。     
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