出逢い

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 ツァイテンは豊かな町だった。広大な砂漠の真ん中に位置するそこは、交易の中継地点として、東の黄桂国おうけいこくと、西のムサドゥス帝国の、全く特色の異なる文化が入り交じり、世界各地から様々な人種が集っていたので、赤膚種の小さな兄妹に目をくれる者はなかった。辺境の、貧しい荒野に飽き、水と豊かさを求めてやってきた、ムサドゥス帝国系の人間は赤膚種であり、数も多かった。さらに西の海の向こうに住むという黒膚種、「雪」というものが降る大陸の北に住むという白膚種も、少ないが見かけた。  人口の半分ほどを占めたのは黄桂国と同じ黄膚種の人間だった。領主一族もそのうちで、支配はほとんど及ばないものの、一応は黄桂国に服従するという形を取り、沙(シャ)という姓を皇帝直々に賜っていた。  沙一族はあまり評判がよくなかった。ここ百年ほど、数代にわたりツァイテンの町を治めているが、人々を、そして町そのものを潤す湖を独り占めし、水に税をかけた。どんな貧者にも水をただでは分けず、気に入らないものには金を積まれても与えないなど、水源の権利を暈に着て、傍若無人に振る舞っていた。  領主一族とその取り巻きだけが潤い、豪奢な生活を送る様子を、あるものはうらやましげに、またあるものは忌々しげにみつめていた。でっぷりと太った五十がらみの当主には、片手に余るほどの夫人と、両手両足の指を足しても収まらない子女があった。そのすべてが豪奢な館に住まい、贅を尽くした生活を送っていた。貧者が求める水にかかる税が、彼らの贅沢の源だった。  砂漠をさまよっていた、親なしのちっぽけな兄妹に、そんな大金持ちの生活は遠いものだとおもわれた。
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