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都内某所、ある商店街のはずれの道を歩いている。
目的は、『1000円自動販売機』だ。
いつもはしないことに挑戦したくなったのだ。
1000円以上の価値があるものが当たって欲しいけれど、『なんだこりゃ』的ながっかりなものが当たってもそれはそれで楽しいだろう。
俺はむきだしの千円札をかっこよくポケットから取り出して、自販機に投入した。
1000円札がスムーズに入っていかず、しまいに戻ってきて、そこに風が吹いて、飛ばされた。
後ろに立っていた老人が拾ってくれた。ガリガリに痩せて、真っ黒に日焼けしている。
「やめときな。その自販機は、四角い箱に入った濡れた粘土しか出ねえよ」
「濡れた粘土ですか?」
「使わねえだろ? それより俺が1000円で25万くらいの価値があるものが入った箱を売ってやってもいいぞ」
単なる営業妨害野郎でしかないが、俺はその時魔が差して、『これこそいつもはしない事だ!』と思ってしまったのだ。
「買います」
老人は、カステラでも入っていたような箱を渡した。
中を開けると、青白い炎が揺らいでいた。箱から浮いて燃えている。
「なんですか、これ!!」
「お前を焼く人魂だよ。最近は火葬代も馬鹿にならねえだろ。ラッキーだよ。俺もこれで焼かれたんだ。いわば俺たちは聖火ランナーさ」
老人は、痩せていたの訳でも、日焼けしていた訳でもなかった。
彼は、煤まみれの骸骨だった。
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