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例によっていつものコンビニに立ち寄ったのは、夜八時をちょっと過ぎた頃だった。
実家を出てから、一人暮らしを初めてひと月。当初は意気込んで男の手料理などと頑張ってみたものの、やはり仕事で疲れきった後、さらに炊飯など、もろもろの行為が必須なのはいかにもキツい。
この時間になると、ほとんど目ぼしい弁当は残っていないのだが、それでも売れ残るものは値引きされていて、ラッキーな時には半額にさえなっているのだ。
特に食い物に好みがなければ、レンジでチンするだけの晩飯ほど有り難いものはない。夕刻スーパーの奧さん方の活躍が、コンビニではこの時刻になるというわけだ。
また俺の、退社時間からここへ辿り着くタイミングは、ベストであるらしい。適当に選んでレジに並んだ後から、わやわやと店が混み始めるからだ。
そんなわけで今夜も弁当を選ぶ俺だが、なんと候補がふたつ。あっさり幕の内に『半ガク』、焼肉弁当が『3ワリ』と、マジックで書き込んだシールが貼ってある。
定価は一緒だし、安さからいったら幕の内だが、少しの差ならたまに焼肉も食いたい。さて、どうする?
しばし悩んで、けっきょく俺は、幕の内をカゴに入れて、さらに足りない分をオカズで補うことにした。
さて買うものも決まって、今週号のジャンプを立ち読みしているうちに、焼肉弁当がどうしても食いたくなった。
安い方がいいのはもちろんだが、口が焼肉の口になっているのだからしょうがない。幸いまだ客は、俺の他にはペットボトルを物色しているOLくらいなもの。再び弁当コーナーへやって来た。
「あれっ?」
思わず声に出してしまった。目当ての焼肉が見当たらんではないか。なんで?
他に客なんかいなかったし。OLさんも弁当は選んでなかったし。一体どういうこと?
と思ったら、弁当コーナー横の隅に買い物カゴが置いてあり、そこに弁当はあった。
そう言えば、店員が周りをチェックしていたのでその時に、ダメな弁当として廃棄の判断をされたのだろう。
「危ない危ない」
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