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 私が彼に出会ったのは、暖かい春の日、通学中の道端での事だった。でっぷりとした体に足が隠れる状態で彼は座っていた。同じ学校の学生たちが急ぎ足で歩く中、思わず立ち止まり、その呑気な姿に見入ってしまった。 「お隣座ってもいい?」  小声で彼に断って隣にしゃがみ込む。彼は私をチラリとも見ずに日の光を浴びていた。 「私はさ、特に何になりたいとかもないの。」  猫相手に何を言っているんだろうとは、確かに思う。だが、彼はどうせ私の話なんか聞いちゃいない。そう考えると、独り言の様に口にしてしまっていた。 「ただ何となく周りに合わせて大学を受験して、就職に少しは役立つかなって今の学部を選んだの。大して仲良くもない友達に話を合わせながら授業を受けて、放課後は課題やらバイトやらに追われてる。夢も目標もない。ただ何となく過ごしているだけ。」  言葉は湧き水のように止まってくれはしなかった。自分の中にずっと潜んでいた漠然とした感情が一度空いた穴からどんどん流れ出てくる。気づけば家庭の問題まで話していた。その間も彼は私に視線を向けることはない。     
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