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誰の言葉よりも穏やかで、直球で、力強い彼の言葉に惹きこまれた私は事あるごとに彼に教えを乞うた。彼は口数こそ少なく、自分からは話さないが、私が問うた事には答えてくれた。
『自分を殺してまで群れる必要がどこにある? 群れるのは身を守るためだろう? 自らを傷つける群れなど、存在する意味がない。』
『自分の領域はしっかり守れ。誰でも入れるなんてみっともない事をするな。』
『相手に媚を売りすぎるな。親愛を込められる人だけにしろ。』
『気を使いすぎるな。』
『一人の時間を持て。』
彼から教わることは全て私を生きやすくしてくれた。実践することで周りに変に気を使うことも、見栄を張ることもなくなり、心が軽くなった気がする。
彼から最も強く教わったのは
『自分が心地いいと思う方を選べ。』
だった。これは彼がはっきりとそう言って教えてくれた訳ではない。彼は自分が心地いいと思う場所に行き、心地いいと思うポーズで座り、心地いいと思うものを周りに置いた。そこに正解なんてない。ただ本能の赴くままにそうしているだけだった。
ある日、彼はいつものようにこちらを見ずに口を開いた。
『涙を流す時と死ぬ時は、仲間の前から姿を消すべきだ。』
「どうして?」
『涙は見た相手を無理やり同情させてしまう。そうすると少なからず相手に無理を強いる事になる。
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