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 死ぬ時に姿を消すのは仲間に少しの期待を持たせるんだ。目の前で死ぬとその死は現実として仲間に襲いかかる。だが姿を消せば、死んだと思いながらも一抹の期待を持たせる事ができるだろう?  そうして泣いたり、死んだりする事を曖昧にして仲間が次の日もいたって普通の暮らしができるようにするのさ。』  こんなに饒舌な彼は初めて見た、と驚くと同時に、私の中にモヤモヤとした不安が生まれた。  そして、それは的中した。彼はその数日後、姿を消した。彼が行くと思われる場所全てに足を運んだ。だが、彼の姿はどこにもなかった。  最後に考えついた場所に行き、いない事を確認すると、彼の死を受け止めることができた。でも、不思議と涙は出てこない。漠然としていて、悲しいだとか、辛いといった感情が少しも湧いてこない。  ああ、そうか。彼の最後の教えはこういう事だったのか。彼は自らの死期を悟って、私に教えてくれたのか。そう納得すると、その場所を後にした。家に帰ってもベッドに入っても涙は出てこなかった。  次の日、私はいつものように学校へ行く。のんびりと歩き、自分の好きな席で授業を受ける。昼は日向ぼっこをしながらゆっくりと好きな物をたくさん詰めたお弁当を食べる。学校が終われば学校の近くの公園で休憩し、家に帰る。何気ない一日に彼の死は、そっと溶けていく。     
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