虚ろな目の店員

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 霞がかったある夜のこと。残業帰りの男が車を走らせていた。  自宅へ向かう道中、男は煙草を切らしていることに気づいた。家で吸うには家族がうるさい。そのため車内で吸うのが習慣になっていた。ささやかな愉しみでもあった。  男は目を擦りながら、大通りから右折して、細い道に入り込んだ。住宅街を通る道だった。  ワイパーが必要なほど濃い霞が出るのは、その土地には珍しく、不気味でさえあった。  だから相手も油断していたのだろう、道路は一方通行にも関わらず、前方からパッとライトの明かりが視界に広がった。 「危ないなっ」  男は驚いてハンドルを切り、対向車を避けた。クラクションを鳴らす余裕もなかった。  少しでも反応が遅れていれば、接触事故を起こしていたところだったろう。    男は文句の一つでも言ってやりたくなった。だが、バックミラー越しに背後を見た時には既に車の姿はなかった。  一方通行に今更気づき、慌てて逃げたのだろうか。  男の苛立ちは中々おさまらなかったが、疲れと煙草が切れたせいだと自分に言い聞かせた。  
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