虚ろな目の店員

3/6
前へ
/6ページ
次へ
 そこは常連というほどではないが、慣れ親しんだコンビニであった。  しかしその日は、いつもと違う点が一つあった。  見覚えのない若者が店員としてレジの所に立っていた。  何がおかしいのだ、と思われることだろう。だがこれには理由があった。  というのもだ。これまで残業帰りに立ち寄る時は、顔見知りのオーナーが店に立っていることがほとんどだった。  オーナーは初老の男性で、毎回、挨拶程度の会話を交わすのが常だった。忙しい昼時ならバイトの子が入れ替わることも多いだろう。しかし、夜にオーナー以外の店員が立っていることは、男の覚えている限りはじめてのことだった。 「オーナーは? 今日は休み?」  男は財布を取り出しながら、疲れた顔をできるだけ明るくして話しかけた。  他所の店なら店員のことなど気にもとめないだろう。しかしこのコンビニは、オーナー夫婦が切り盛りしている。そのことを男は知っていた。  地元愛なんて大それたものではない。密かに二人を応援するつもりで利用していたのだ。 「体調でも崩したのかな? え?」  気さくに話しかけたにも関わらず、若者は返事をしなかった。  ぼんやりと虚空を見つめている。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加