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「たば…………」
男は面食らったように言葉を飲み込んだ。
しかし、次の言葉を発する暇もなく、若者は再び目を逸らした。まるで目が合ったのは偶然でもあったかのように。
ここまで来ると、怒りを通り越して薄気味が悪かった。
背筋に冷たいものを感じ、男が一歩身を引いたその時、入り口の自動ドアが開いた。
若い男女の、カップルらしき客が入って来たのだが、信じ難いことが起きた。
「らっしゃーせー」
男は耳を疑った。驚きの顔で店員を見る。
確実に店員は、そのカップルをどこか羨むような眼差しで見ていた。
男はどういうことかと思いながら、カップルに話しかけた。
「なぁ、そこの……おにいさんたち」
十分聞こえるほどの声を出したつもりだった。しかしカップルは男の前を素通りし、惣菜コーナーへと直行していった。
がたりと音がして、カウンターの奥から見覚えのある顔、オーナーが現れた。
どうやら休憩中だったらしい。
男はほっとして、オーナーの方へ一歩進んだのだが、
「なぁ、オーナー! ……オーナー?」
オーナーと若いバイトは男を無視するかのように、むしろ何の躊躇いもなく二人で談笑を始めたのだった。
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