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ある日の昼下がりのこと。手押し車を押した一人の老婆が、田舎町にある小さなコンビニの前に現れた。
些細な用事を済ませるためだった。
さて、老婆がいざ入店しようという時、駐車場のところでたむろする学生服姿の若者たちが老婆の目にとまった。
四、五人で集まり地べたに座り込む彼らは、カラースプレーを振り回しアスファルトに何やらラクガキをしている様子だった。
彼らとちょうど同じ年代の孫が老婆にはいた。だからそのような若者がいると、つい老婆も思いやりの目で見てしまうのだ。
「なんだよ、ばあさん」
老婆の視線に気づいた学生の一人が老婆を鋭く睨み返した。
老婆は伏し目がちになりながらも、
「学校はどうしたんだい?」と訊いた。
学生は学校にいるはずの時間だった。そのことは彼らも承知のようで、「関係ないだろ」という声が返ってきた。
老婆は視線を落とし、地面にラクガキされた文字を見た。バカだとか死ねだとか、口にするのもはばかられるような罵倒の言葉が綴られていた。
「まだ何か言いたいことがあるのかよ」
とうとう若者たちは一斉に立ち上がり、今にも老婆に詰め寄ろうとした。
老婆は諦観に満ちた表情を浮かべ、若者たちから視線を逸した。
それからコンビニに向かって歩き出したのだが、「言いたいこと? その必要はないね」とぼやくように言った。
そして、怪訝な顔をする若者たちに向かって吐き捨てるように言った。
「地面に書いてあるからさ」
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