三 風の音

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 龍也が慌てて尚を抱き上げる。 「大丈夫か?」 「タツが悪いんだよ! 変なこと言うから!!」  龍也の胸を思い切り押し返すも体力に差があるのは歴然で、龍也はぴくりとも動かなかった。 「変だよな。確かに。俺って変態かもしんね」  落ち込んだように言うが、その手の力は緩まない。  龍也の尚を見る目は、いつもの過保護なそれとは違っていた。いつもと違う雰囲気に、龍也の本心がわからない。どこまで本気で、どこまで勘違いしているのか。 「ち、がうと、おもうよ」  顔を真っ赤にしながら、尚は途切れ途切れに言った。 「タツはね、勘違いして、る」 「勘違い?」 「うん、ごめん、タツ、悪くない……。僕が、こんな、だから、だから」 「――!」 「ん!」  突然胸に圧迫感を覚え、小さく唸り声が出た。  龍也が尚を掻き抱いていた。 「勘違いなんかじゃねえし! いや、勘違いでもいいんだよ」 「タツは、僕の、女の子みたいな体に……」 「そんなん、どうでもいいって言ってんだろ! それもこれも全部ひっくるめてナオって奴で、俺は、俺は、それも全部、自分のモノにしたいって思ったんだよ!」  龍也の声が風呂場の壁に反響して、尚の脳髄にまで響いた。  声が止むと、相変わらず激しい風が、窓の外で唸っている。 「だから……ゴメン」  尚を引き剥がしながら、絶望したような表情で龍也が呟いた。 『相思相愛で何を悩むことがある?』  竜平の嗤う声が聞こえたような気がした。  ――僕もごめんね。タツのことが好き過ぎてゴメン。  口には出さず、啄むようなキスを龍也の顎に落とした。  
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