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「俺、着替えを片付けて来るからさ、ナオは先に食堂に行ってろ」
「え、僕も」
「いいってば」
龍也は強引に尚の荷物も奪うと、そのまま急いで階段を昇った。
「待たせちゃ悪いから、先行ってろ」
「う……ん」
渋々頷く尚には悪いが、落ち着くためにも、一度尚から離れたかった。
髪を留めるために荷物を小脇に抱え首を傾ける。日に焼けたピンク色の首筋に浮かび上がる汗。
白い浴衣に相まって、それは艶めかしいほどに綺麗だった。
――好き――
何度も口にして来た陳腐な言葉。独占欲を伴った「好き」は、今までの「好き」とは意味が違う。
――もう、ナオを今までと同じように見れない。
言わなきゃ良かった。自覚しなきゃ良かった。
尚の湿ったピンク色の首筋に、欲情を感じてしまった自分を嫌悪した。
ふと、遠い昔を思い出した。
元、父だった男の眼。
色を含んだ野獣のような眼。
怖気が走って、頭を振った。
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