四 夕凪

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「俺、着替えを片付けて来るからさ、ナオは先に食堂に行ってろ」 「え、僕も」 「いいってば」  龍也は強引に尚の荷物も奪うと、そのまま急いで階段を昇った。 「待たせちゃ悪いから、先行ってろ」 「う……ん」  渋々頷く尚には悪いが、落ち着くためにも、一度尚から離れたかった。  髪を留めるために荷物を小脇に抱え首を傾ける。日に焼けたピンク色の首筋に浮かび上がる汗。  白い浴衣に相まって、それは艶めかしいほどに綺麗だった。  ――好き――  何度も口にして来た陳腐な言葉。独占欲を伴った「好き」は、今までの「好き」とは意味が違う。    ――もう、ナオを今までと同じように見れない。  言わなきゃ良かった。自覚しなきゃ良かった。  尚の湿ったピンク色の首筋に、欲情を感じてしまった自分を嫌悪した。  ふと、遠い昔を思い出した。  元、父だった男の眼。  色を含んだ野獣のような眼。  怖気(おぞけ)が走って、頭を振った。
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