四 夕凪

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「そんなわけないじゃん!」  廊下に大笑いするナミの声が響く。尚の笑い声も聞こえてきた。  食堂の和やかな雰囲気に、龍也はほっと胸を撫で下ろす。 「すいません。遅くなって」 「遅いよー、お兄さん」  ナミが手招きする。  ナミの向かい側の席が空いていた。  隣に座った尚は、大皿の唐揚げに箸を伸ばしていた。 「あたしゃ、てっきり兄と妹だと思っていてねえ」  先ほどの話の続きだろう。お婆さんが眉を下げながら言う。 「酷いでしょ?」龍也の方を向いて、尚もその勘違いに笑いで返していた。「確かに半分女の子みたいなものだけどさ」  その言いように龍也は内心、どきっとしたが、尚は全く意に介さないように見える。 「だから、明日もお客さんがいないし、もう一泊すりゃあええって誘ったんだよ」  お婆さんが続けた。 「いや、あの……」  いったいどこまで話が進んでいたのだろう。尚はしらっとした顔でご飯を食べ続けている。 「いや、着替えもないし、ナオの親が心配するから。こいつ、まだ中坊だし」 「え、僕はいいけど?」  付け合わせのトマトを頬張りながら、上目遣いで龍也の方を見た。 「ほぉら~、どうする? お兄さん」  賑やかなナミの横で、黙々とご飯を食べ続けている真鈴をチラリと見た。  あんなことがあったのだ。正直、真鈴の側にいること自体が心苦しかった。 「いや、明日はバイトがあるし……」  龍也はやんわりと断った。  尚はキョトンとした顔で、「まあ、そうだね」と納得したようだった。 「……にしてもさ、マリンとお兄さん、何かあった?」 「え?」 「何言ってんの!」  ナミが投下した突然の爆弾に、龍也と真鈴が同時にナミの方に視線を投げた。
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