四 夕凪

6/66
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
「だってさ、二人とも一度も目を合わせてないし、マリンったらだんまりなんだもん」 「うるさいわね! 何にもないわよ!」 「ねえ、お兄さん、どうなの? この人、もしかしたら」「余計な詮索しないでよ!!」 「これ、お客様の前だぞ。姉妹(きょうだい)喧嘩は止めんさい。みっともねえ」  ぴしゃりと、お婆さんが制した。 「ごちそうさま! お婆さん、美味しかったです。なんだかご馳走になっちゃって。うちの母親のご飯よりも美味しかったかも」 「そりゃあ、光栄だね。良ければ来年は連泊でおいでよ。宿泊代は安くしてあげるからね」 「本当ですか!? じゃあ、ほかの友達も誘い合わせて来たいなあ」  その場の気まずい雰囲気を物ともせず、尚がお婆さんと話を弾ませていた。  ――こんな風に、他人の中にすんなりと溶け込む奴だったっけ……  何にせよ、助かった。  尚はそのまま、お婆さんと厨房に入って行った。食べ終えた食器を片付けるのだと言う。  龍也も早々に食事を終わらせた。  お婆さんの手料理は美味しかったはずなのに、味など憶えていなかった。  
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!