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◇
「ナミさん、鋭いなあ」
布団の中で尚は思い出し笑いをした。
「ナオさ、なんだか機嫌が良いな」
龍也がジト目で睨む。
「僕は連泊しても良かったのにさ。明日バイトだなんて、嘘なんでしょ」
豆球の小さな灯りの下、龍也の神妙な顔が尚の至近距離まで近づく。
「そうさ。これ以上、マリンって娘とは一緒にいられねえよ。気まずすぎる」
「だから嬉しいんだ。タツがあの女の子のモノにならなかったってことだもん。言ったでしょ。僕、タツを全部独り占めしたいって」
「わかっていて、あんな風に打ち解けていたのか」
半ば呆れて半ば感心したような龍也の顔に、尚はそっと手を伸ばして、その髪に触れた。シャンプーしたての髪は、いつものようにツンツンではないものの、やはり硬くてゴワゴワしていた。
「この髪に触るのも僕だけだよ」
「ナオ……」
「タツが女の子になれって言ったら、僕は女の子になってもいいよ」
「んあ? な、何言って……!」
絶句して、半身を起こした。
「それでも、染色体は男だから、殻だけが女ってだけなんだけどさ。きっと不可能じゃないと」
急に眩しくなって、思わず目を逸らせた。龍也が部屋の灯りを点けたのだ。
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