32人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
「こっち見ろ。ナオ」
「なんだよ」
龍也の表情はわかりやすい。明らかに不機嫌だ。自分相手にこんな風に不機嫌になったのを見たことがなかった。
――何? なんで怒ってるのさ。僕のこと、好きって言ったくせに!
訳が分からなくて混乱した。
最初、頭に描いていたのは、あの真鈴って女の子を好きになっちゃったって、告白されるんじゃないかという展開。それは尚にとって、最悪のシナリオ。
『ナオの気持ちは分かっているけれど、でも友達だから。だから、俺が女の子を好きになるのは自由だろ』――みたいなことを言われたら、きっと絶望していただろう。
――けれど龍也は僕を「好きだ」と言ってくれた。自分のモノにしたいって言ってくれたじゃないか。なのに、
「どうして怒ってるのさ」
「なんで自分をそんな風に適当に扱うんだよ。さっきだってそうさ、『半分、オンナみたいなもん』的なことを平気で言ってたし!
俺はナオに女になってくれなんて思ってないし!! ナオだって、前は男らしくなりたいって言ってたじゃんか」
――そんなこと。
そんなことこそどうでもよかった。
龍也をずっと繋ぎ止められるのなら、龍也の好きな自分でいたいって思うだけだ。自分たちが男同士だから、「好き」と言うのも束縛したいと思うのも躊躇ってしまうのであれば、いっそのこと、中途半端に男にぶら下がっていないで、女になっちゃえば問題解決じゃないか。――と言う感覚がストンと旨い具合に落ちて来て、自分的にはナイスアイデアだとすら思ったのに。
それを言葉にうまく表せなくて、尚は困った。
最初のコメントを投稿しよう!