四 夕凪

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「こっち見ろ。ナオ」 「なんだよ」  龍也の表情はわかりやすい。明らかに不機嫌だ。自分相手にこんな風に不機嫌になったのを見たことがなかった。 ――何? なんで怒ってるのさ。僕のこと、好きって言ったくせに!  訳が分からなくて混乱した。  最初、頭に描いていたのは、あの真鈴って女の子を好きになっちゃったって、告白されるんじゃないかという展開。それは尚にとって、最悪のシナリオ。  『ナオの気持ちは分かっているけれど、でも友達だから。だから、俺が女の子を好きになるのは自由だろ』――みたいなことを言われたら、きっと絶望していただろう。  ――けれど龍也は僕を「好きだ」と言ってくれた。自分のモノにしたいって言ってくれたじゃないか。なのに、 「どうして怒ってるのさ」 「なんで自分をそんな風に適当に扱うんだよ。さっきだってそうさ、『半分、オンナみたいなもん』的なことを平気で言ってたし!  俺はナオに女になってくれなんて思ってないし!! ナオだって、前は男らしくなりたいって言ってたじゃんか」  ――そんなこと。  そんなことこそどうでもよかった。  龍也をずっと繋ぎ止められるのなら、龍也の好きな自分でいたいって思うだけだ。自分たちが男同士だから、「好き」と言うのも束縛したいと思うのも躊躇(ためら)ってしまうのであれば、いっそのこと、中途半端に男にぶら下がっていないで、女になっちゃえば問題解決じゃないか。――と言う感覚がストンと旨い具合に落ちて来て、自分的にはナイスアイデアだとすら思ったのに。  それを言葉にうまく表せなくて、尚は困った。
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