一 夏休みの宿題

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「僕、こういうの大好きなんですよね。……でもさ、自分がすでに女っぽいから、余計に好きって言うの、憚られるんだよね」 「憚られる……なんて、難しいこと言うのね」梨花が笑った。「女の子だって男っぽいのが趣味って子もいるんだから、好きなものは好きでいいんじゃない? それに秘密ってのも乙な楽しみ方だと思うよ。ここをナオ君の秘密の部屋にしてくれて全然オッケーだからね」 「ナオはムキムキになりたいって、前に言ってたじゃんか」  龍也が横から口出しをした。 「そうなの?」未沙が驚く。 「うん、いつかはね。カッコイイ男になりたいんだ。夢だけどさ」 「ナオ君はさ、かっこよくも可愛くも、美しくもなれる要素を秘めているんだもん。それをうんと満喫していいんじゃない。別にどちらに決めなきゃならないって決まりはないもの。  欠点はね、長所にも生まれかわるのよ」  梨花の言う言葉には説得力がある。  前までの尚ならば、「そんなの……」「どうせ……」――そう言って尻込みをしていただろう言葉の数々。でも今は、素直にそれを受け止めることができた。  それはきっと、夏の魔法。  この夏はきっと、今までにない夏になる。  一条先生が出した宿題のテーマだって、簡単にクリアできそうな気がしていた。
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