二 青いりんご

1/26
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ

二 青いりんご

 海へ行くと言っても、尚たちの住む町から海は恐ろしく遠い。大人たちのように車を持っているならともかく、電車で行こうなんて気にはなれない。龍也のバイクにニケツをするとなれば、高速道路を諦めなきゃならない。  結局四人(一応次郎長も誘うことを前提として)でどこかに出かけるとなると、海という選択肢は外された。 「秩父とか長瀞のキャンプ場なら、電車で行けるよ。会費でコテージとか借りたらどう? Wi-Fiのスポットもあるしさ」  未沙が次郎長に向かって尋ねた。  色々提案するが、次郎長は今一つ乗り気ではないのだ。 「人、多そうじゃん」 「そんなでもないと思うけど?」 「あ、ここなんてどう?」  パソコンを弄っていた尚が、地図を拡大して見せた。 「青梅線で行けるよ。多摩川の上流」 「ど田舎じゃん!」と、次郎長。 「ど田舎じゃなきゃ、キャンプなんて面白くないじゃん」 「ここのビルの屋上でいいや、俺」  出不精にも程があると、未沙と尚は顔を見合わせ、肩をすくめた。  今日も次郎長を呼び出すだけでも、どれほど説得したことか。彼はなんだかんだと理由を作っては、部屋から出ることを拒む。この調子じゃ、きっとキャンプは不参加だろう。 「決まったか~」  龍也が来た。バイトが終わったのだ。 「もう五時? 何にも決まってないよ」未沙は自分専用のオフィスチェアーに座ると、クルリと一回転させた。 「次郎長ったら、びっくりするくらい出不精なんだもん」
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!