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二 青いりんご
海へ行くと言っても、尚たちの住む町から海は恐ろしく遠い。大人たちのように車を持っているならともかく、電車で行こうなんて気にはなれない。龍也のバイクにニケツをするとなれば、高速道路を諦めなきゃならない。
結局四人(一応次郎長も誘うことを前提として)でどこかに出かけるとなると、海という選択肢は外された。
「秩父とか長瀞のキャンプ場なら、電車で行けるよ。会費でコテージとか借りたらどう? Wi-Fiのスポットもあるしさ」
未沙が次郎長に向かって尋ねた。
色々提案するが、次郎長は今一つ乗り気ではないのだ。
「人、多そうじゃん」
「そんなでもないと思うけど?」
「あ、ここなんてどう?」
パソコンを弄っていた尚が、地図を拡大して見せた。
「青梅線で行けるよ。多摩川の上流」
「ど田舎じゃん!」と、次郎長。
「ど田舎じゃなきゃ、キャンプなんて面白くないじゃん」
「ここのビルの屋上でいいや、俺」
出不精にも程があると、未沙と尚は顔を見合わせ、肩をすくめた。
今日も次郎長を呼び出すだけでも、どれほど説得したことか。彼はなんだかんだと理由を作っては、部屋から出ることを拒む。この調子じゃ、きっとキャンプは不参加だろう。
「決まったか~」
龍也が来た。バイトが終わったのだ。
「もう五時? 何にも決まってないよ」未沙は自分専用のオフィスチェアーに座ると、クルリと一回転させた。
「次郎長ったら、びっくりするくらい出不精なんだもん」
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