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蒼い空。青い海。照り付ける太陽。
生憎の天気である。
男はビーチパラソルの下で呻いた。あと数年もすれば初老を迎える体に、真夏の陽気は堪える。風は生温いばかりだ。波の音は気休めにもならない。他に聞こえてくるのは波を蹴ってははしゃぐ声と、それを追いかける犬の声。
遠目に波打ち際を眺め、男は息をつく。
「マリア、君は遊ばないのかい」
男の問いに、長年連れ添った彼女は眠そうな目をゆっくり瞬く。しなやかな尾が僅かに砂を叩いた。
「お互いもう歳だからな。あんなふうには走り回れないか」
背を撫でるとマリアは心地よさげに目を閉ざす。
男は2匹の犬とボールで戯れる影を目で追った。
「そもそも私もこんな暑い中、海に来るとは思いもよらなんだ」
細い腕がボールを投げ、それを2頭が追いかける。片方がボールをくわえて戻ってくる。彼女が褒める。また投げる。ボールが波に揺られて遊ぶ。
「それでも彼女が私と君たちと行きたいと言うからね。断れるはずも無いだろう。誘ったのは私なのだし」
マリアが欠伸をする。剥き出しになった大きな口に、男は些か顔をしかめた。
「まさか、ああも簡単に了承されるとは思わなかったよ。君だったら、年金暮 らしの男と二人きりで楽しく別荘にお泊まり、だなんて怪しすぎると思うだろう? 私も思う」
自問自答に肩を竦める。
「若気の至りで買ったビーチなんてもう売りに出しても良い頃合いだと思っていたが……。人生分からないものだな……」
上手いこと口車にのせられて購入したなんて口が割けても言えない。
男は渋面した。
「全く、分からないものだ…………」
水遊びに興じる黒髪は潮風を受けて流れる。踝まで浸かった脚は石膏のように白く、しなやかで。
いやいや、と。男は頭を振る。
「この歳にもなって情けないとは思わないか、マリア。今になって私は、君と、君の子どもたち以外に、自分を看取ってくれる存在を欲している。それも、自分の娘程の存在に」
手を伸ばして小麦色の毛並みを撫でると、彼女は微かに鼻を鳴らした。
絶え間なく続く波音が次第に遠くなる。
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