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episode 1 The girl stands at the entrance of the wonderland
たくさんの車が走り行く音を聞きながら重たいカバンを引きずって歩く。
とある探偵事務所を探して街を彷徨うことかれこれ2時間。地図を握りしめ道行く人々に事務所のある場所を尋ねようとするもわかっていて無視されているのかはたまた忙しさから避けられているのか…
どちらにせよ声をかけようとする人は皆あたしの方を見向きもせずに立ち去って行ってしまう。
あたしは近くの公園にある大きな木の下にあったベンチに座り途方にくれていた。
(こんな時にお姉様がいてくれたら…)
涙が出てきそうになり首を振って涙が溢れないように耐える。それなのに一度出てきてしまった涙は今にも零れ落ちそうなくらい目の淵に溜まっていく。
(泣いちゃダメ。泣いたってどうにかなるわけじゃない)
頭ではわかっているのにからだはいうことを聞いてくれない。
俯いて涙をこらえていたら急に座っている場所に影ができる。
「大丈夫ですか?具合悪いんですか?」
俯いていた顔を上げて声の主を見る。
そこにはとても綺麗な中性的な顔をした男の人が立っていた
「突然声をかけてしまってすみません。あそこのカフェにいたのですがたまたまあなたの姿が目に入ってうずくまったまま動かなくなってしまい気になって…」
そう言って彼は近くにあったカフェを指差してからもう一度こちらに振り返りあたしと目線が合うようにしゃがんでくれた。
「僕の名前は秋紀(あき)と言います。あなたは?」
優しく微笑みながら問いかけて来る彼が纏っている空気はとても暖かくて。
「あ、あの。あたし、アリスって言います。高嶺アリス…。」
「アリスさんと言うんですか。可愛らしいあなたにぴったりの素敵なお名前ですね。」
そう言って笑顔を向けられればさっきまで止まらなかった涙がなぜか嘘のようにピタリと止まる。
「それで、アリスさんはどうしてこんなところで泣いていたんですか?」
彼は小さい子をあやすような優しい声で泣いていた理由を訪ねてくる。
こちらに来てこんなにも優しくしてくれた人は初めてだってので少し緊張しながらも少しずつこれまでの経緯を話す。
「あたし人を…あ、お兄……じゃなくて兄を探すためにここに来たんです…。家族とトラブルで離れてしまって頼りに出来る人はもう兄しかいなくって。でも1人で探すのは限界があったので東京にとても優秀な探偵さんがいるって聞いてその人に兄を探して欲しくて…」
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