episode 1 The girl stands at the entrance of the wonderland

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「でもあたし、恥ずかしながらこの年まで一人でお屋敷の外に出たことがなくってすぐに迷子になってしまったんです…。道を聞こうにも誰も見向きもしれくれなくって、あたしどうしていいか…」 そこまで話すとせっかく秋紀さんが止めてくれた涙がまた出て来そうになる。あたしは着ていたワンピースの裾をぎゅっと掴んで涙が溢れないように堪えていると横からスッとハンカチを差し出された 隣を見ると秋紀さんは優しく微笑みとくれる。 「涙を拭いてください、アリスさん。素敵な女性に涙は似合わないですよ」 そう言うと躊躇していたあたしの手をそっと触れて差し出したハンカチを握らせる。 「ちなみにその探偵事務所はなんと言う名前なんですか?」 「あ、えっと。うさぎ探偵事務所…?」 ポケットの中、握りしめてくしゃくしゃになっていた事務所への地図が書いてあるチラシを彼に差し出す。 「うさぎ探偵事務所ですか…。うん、そこなら私も知っていますよ。よろしければ案内しましょうか?」 彼はそう言って立ち上がり手を伸ばす。 「あ、でもお仕事中じゃ…」 案内をしてくれるのはすごく嬉しいし助かるけれど…。「お父様が昼間からスーツを着こなしている方はサラリーマンと呼ばれる職業の方達で彼らは常に忙しい生き物だから無闇に邪魔をしてはいけないと。」 彼はその言葉を聞くとキョトンとした顔をしてからすぐに可笑しそうに笑い出す。 「心配無用ですよ。僕はサラリーマンではありませんので。それに実は僕もちょうど私もその場所に向かうところでしたのでおきになさらないでください。」 なので大丈夫ですよ、と手を差し出された手を遠慮がちに掴むと彼は私をその場に立ち上がらせてくれる。 「それでは行きましょうか。ここから少し歩きますがそんなに遠くないですよ。」 そう言って掴んだ手を離さないまま彼はゆっくりと私が歩くペースに合わせて一歩前を行く。 (さっきまで都会はこわいひとばかりだとおもっていたけれど優しい人もいるんだ!) 私は偶然舞い降りてきたこの出会いに感謝しつつ手を引いてゆっくりとあたしを気遣いながら歩いてくれる彼の隣に並んだ。
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