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「ミサキさんは、幽霊とかお化けとか、信じるタイプの人なのね」
黙っていることが退屈になって、奈津美は口を開いた。話題は何でもよかった。
「私、そういう話をする人って胡散臭くって嫌いなんだけど、なんだろうな、ミサキさんの話は素直に聞けるのよね。本当にそうなのかもしれないって思えてくる。そう思ったほうが、すべてがしっくり来るっていうのもあるけど」
リクは足を止めず、表情も変えずに奈津美をちらりと見てきた。
「信じる信じないは奈津美さんの自由です。僕はただ、事実を話しているだけだから」
「そうね。信じてあげても良いわよ。あなたは16年前に行方不明になって死んだあやのの幽霊に出合って、その絵を描いた。うん、悪くないわ」
自分でも半信半疑な気持ちを弄びながら、奈津美は言った。
隣でリクが小さく笑ったのが少し気にくわなかった。
「でもね、あなたが幽霊に出会った場所が何であの廃村なのかが気になってる。だってそれってまるで、16年前にあの場所であやのが死んでしまったって言ってるように聞こえるから。16年前、あやのが居なくなった日、私は確かにここに来た。でも、一人だった」
「だけど奈津美さん、それも半信半疑なんでしょ? だからそれを確かめたくて今、この道を歩いている」
「あなたが疑ってるように思えたからよ。自分の曖昧な記憶をすっきりさせないと、私自身が気持ち悪いじゃない。自分の身の潔癖を晴らした後で、あやのの幽霊の吐いた嘘を笑ってやるの」
リクは歩く速度を変えずに、静かに笑った。
「あやのさんは何も言いません。彼らは、こちらが聞きたい情報を教えてくれるほど親切ではありませんから」
「なんだ、じゃあこっちの取り越し苦労かもしれないわけ? でもさ……、もしもあやのの遺体が廃屋のどこからか出てきたら、ミサキさんどうする?」
かなり気合を入れて言ってみた質問だったが、隣を歩くリクに軽くスルーされ、奈津美は少しばかり苛立った。
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