第14話 断罪の森

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「私を警察に突き出す?」 「奈津美さんを?」 「16年前の私の罪として」 「罪を犯したんですか?」 「そう思ってるんでしょ? こうやってついてきてくれるのも、それが知りたいからでしょ? あやのの幽霊がいるにしても、いないにしても」 「さあ。僕は過去の事は分からないから」 「そうよね。幽霊に聞いたとか警察に言ったら、頭が可笑しいとか思われちゃうもんね。なんかちょっと安心した」 本当は安堵など微塵もない。半信半疑の靄に包まれたまま、結論の導き出せない言葉のやり取りを続けながら、奈津美はリクと共に森の奥深くへ分け入っていった。 「あやのの幽霊は、本当にあの浴衣を着ていたの?」 どこかで常に水音が響く。緑が濃くなっていく。 「鮮やかな色でした。誰かを待ってるように廃屋のそばに佇んでいました」 「でもそれって変よね。あの桔梗柄の赤い浴衣は、あやのに貰って、私がずっと持っていたのよ。あやのが袖を通したのは一回きりなのに。化けて出たあやのが浴衣に執着してたなんて思えない」 そうだ。あやのの部屋で、神聖な儀式のようにその白い裸体に羽織ってやった。 自分が何をされても頬を染め、恥ずかしさに耐えていた無垢なあやのが可愛くて抱きしめた。 か弱いこの個体は隅々まで自分の物になるのだという予感に満たされていた数ヶ月間が、じんわりと奈津美の脳裏に蘇り、懐かしい疼きに変った。
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