焼き餅焼くとも手は焼くな。

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「凛ちゃん、見てみて! すっげぇもの見つけちゃった!」 図書室の奥から出て来た吉澤君の声を聞いた時、嫌な予感はしていた。 虫の知らせ、とでも言うのだろうか。 続いて、頭や肩の埃を払いながら 出て来た蒼さんの顔を見て、予感は確信に変わった。 蒼さんが手に持っていたのは、色褪せたアルバム。 赤いチェクの模様の可愛らしい表紙が、すっかり黄ばんで埃まみれになってしまっているけど。 それは確かに30年以上前、 私がこの病院の入院患者だった頃のアルバムだ。 看護師さんが患者さんを撮影したスナップ写真が収められていて、 その中には何枚か私の姿も写っている。 「……どこから、そんなものを」 蒼さんの真顔が怖すぎて、声が震える。 本当は駆け寄って、誰にも見られないように奪い返したいのに。 実態のない亡霊のわたしが、生身の人間の蒼さんに敵うわけなどなく。 「凛。 ……誰なんだよ、この男」 突きつけられたページには、 30年前とは言っても今とそれほど変わらない姿の私と、 その隣には、なつかしい笑顔が写っていた。 ……和彦さん。 何10年もの間、何度も思い返して そのたびに記憶があいまいになり、 曇りガラスを挟んだようになっていた笑顔が、急に鮮明に目の前に突きつけられる。 その瞬間、 自分でも驚くほど胸が痛んだ。 そんな私の様子を、 蒼さんは苛立った目で見つめている。
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