焼き餅焼くとも手は焼くな。

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「いい加減、つーか…… 前に1回?……いや、何回か正直よく覚えてねえけど、ノリでそんな感じになっただけで、 今は全然そんなんじゃないっつーか」 「正直に言い過ぎだろ!」 動揺して目を泳がせる蒼さんの胸を、明日香さんのツッコミが素通りする。 私、馬鹿だ。 こんなふうになるのが嫌だから、あのとき気がつかないふりをしてたのに。 上半身裸の蒼さんの肩に絡まる、 オレンジ色のマニキュアを塗った指。 ショートパンツの上に水着だけ付けた健康的でみずみずしい体。 それにあの子、前に蒼さんが右耳につけていたのと同じピアスをしてた。 「……最低」 後悔と嫉妬でぐちゃぐちゃになって、 気がつけば、 今まで誰にも向けたことがないようなきつい言葉が唇からこぼれていた。 「いやいや、凛ちゃん、落ち着いて」 吉澤君が焦ったように間に入る。 たぶん、また蒼さんが 手をつけられないほど怒り出すのが怖いんだと思うけど。 「最低で悪かったな。 凛がどう思ってるか知らねーけど、 男なんてみんなそんなもんなんだよ。 お前と写真に写ってたあいつもな」 「……和彦さんは、そんな人じゃないです」 久しぶりに声に出して、彼の名前を呼んでいた。 その響きは、『最低』という言葉よりも よっぽど蒼さんにダメージを与えたようで 一瞬息を呑む気配が私にも伝わった。 優しくしたいのに、傷つけたくないのに。 笑っていてほしいのに。 唇が刺々しい言葉に支配されたみたいに、止まらない。
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