焼き餅焼くとも手は焼くな。

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「蒼さんはいい加減な気持ちだったかもしれないけど。 女の子は、好きな人とじゃないと、そうゆうこと……」 「お前には関係ねーだろっ!」 多分、今までで1番大きな声で怒鳴られた。 怖さよりも、 『関係ない』という言葉のショックの方が大きくて、私は泣いてしまわないように唇を噛んだ。 そう。蒼さんの言う通り。 蒼さんが他の女の子と何をしようと、私には何も言う権利はない。 だから一般論にかこつけて、蒼さんを責めて。自分の嫉妬心を紛らわせようとしているだけ。 「……そんな顔するなよ。 つーか、そーゆう意味じゃねぇし!」 蒼さんは苛立ったように金髪をかきむしると、心を落ち着かそうとするように、 深く長いため息をついた。 「凛。 2人で話そうぜ。屋上行こ」 ずっと聞きたかった言葉。 だけど どうしてこんなときに、という気持ちのほうが強くて、ますます私を意固地にさせる。 「嫌。行かない。絶対に」 ひっ、と吉澤君が息を呑んで 明日香さんが、「あ。狂犬のリードが外れた」と呟くのが聞こえた。 気がつくと、凄い勢いでやって来た蒼さんの顔が真近にあって。 私は壁と蒼さんの体に挟まれていた。 「別に俺は、誰に見られても 何聞かれても、全然構わねーけど」 口元からこぼれる八重歯が、今日は悪魔の牙に見える。 必要以上に顔を近づけてくる蒼さんに、 みんなの目が気になって死ぬほど恥ずかしい。 いつもはここでひるむけど、 なぜだか今日は 意地っ張りの虫が騒いで落ち着く気配がない。 「……恥ずかしいことしてるのは、蒼さんじゃないですか。 なんで私が恥ずかしがらなきゃいけないんですか」 睨み返す私に、吉澤君が震えながら、 「今日の凛ちゃん、どうしちゃったの?」 と呟くのが聞こえた。
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