焼き餅焼くとも手は焼くな。

9/13
前へ
/231ページ
次へ
遠ざかっていくバイクの音。 窓から見送ることもできずにうつむいている私に、明日香さんがあきれたように声をかける。 「馬鹿じゃない? 泣くなら男の前で泣きなさいよ」 「……泣いてません」 「ふーん、涙じゃないんだ。 みんなー、こいつ目から鼻水たらしてるよ。汚いから近づかないでおこー」 「明日香さんて時々、 好きな女の子いじめてる小学生みたいだよね」 「愛されてますねぇ、凛ちゃん」 ……慰めてとは言いません。 せめて、そっとしておいてください。 相変わらず緊迫感のない3人の様子に、力が抜ける。 机の下で毛を逆立てているにゃーごたちに手を伸ばすと、待っていたように私の胸に飛び込んでくる。 「よしよし、怖かったね……」 抱きしめて頭を撫でてあげながら、 蒼さんが壊していった柱に目を向ける。 物に当たるとか、本当に最低。 そう思ってるはずなのに。 今までのわたしなら、そう思うだけだったはずなのに。 もし明日、蒼さんが来てくれなかったらどうしよう。 そんなことを思って不安になる自分が、たまらなく嫌だ。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

283人が本棚に入れています
本棚に追加