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ヒルダは死んだ眼で青年にそう言うと青年は笑う。
「そのくらいサービスでいいじゃないですかぁ! 運び屋なんだから」
「てい!」
ヒルダはその小瓶を遠くに投げた。
(おぉ、よく飛ぶは)
「なんて事すんだ!」
そう言いながら青年は走って小瓶を取りに行く。
「くっそ、何だあのデリカシーのない男は」
確かに女のヒルダからしてもテレサは可愛いと思う。何と言うか守ってあげたくなるそんな雰囲気がある。
自然な笑顔でパンを売って客と談笑しているテレサを見てヒルダも不思議と頬が緩んだ。
「くくっ……」
「ん?」
ヒルダの隣でリゲルが笑いを堪えていた。
恐らく先ほどの事で笑っているのだろう。
「ちょっとリゲル先生笑いすぎだよぉ」
「悪い、しかしプッ。自分の事だと思って……」
「そんなに私が滑稽か、このぉ!」
「あははは、やめろ」
リゲルの身体をこちょこちょとこそばすヒルダに声をかけられる。
「あのすいません」
正直ヒルダはまたかと思って振り返る。
「何か?」
「運び屋さんですよね?」
「そうですが、数メートルの距離は運びませんよ」
「いえ、サイネクスの宅配レースに出てみませんか?」
「宅配レース?」
渡された紙を見るとリゲルも覗き込んでくる。
何やら数年に一度のお祭りらしい。
くじ引きで当たった荷物をクジに書いてある届け先に届けて帰ってくる趣旨の分からないレースらしい。
参加賞がある事と、会社の名前を売る事が出来るので様々な国から参加者がやってくるらしい。
「ふーん」
「出てみたらどうだ?」
リゲルにそう言われるがあまりノリ気ではないヒルダにチラシを持って来た男は言った。
「参加者さんには王都名産の卵をたっぷり使ったケーキが配られます。お土産にも大人気なんですよ」
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