第一章 ジオテラス編

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 リゲルはそう言うとメフィスの持って来た青いバラを咥えた。 「ちょっと待ってよぉ先生」  無言でリゲルは雑貨屋へと行くとバラを入れておく小さなケースを買った。  首に括ってある皮の財布から綺麗な銀貨を取り出すとそれで支払をする。 「まいどー」 「先生それすっごい高い入れ物じゃん」  銀貨は銅貨十枚分くらいの価値がある。銅貨十枚は一般家庭の半月分の生活費になる。  そのくらい高価な入れ物を買ったリゲルはそれに青いバラを入れるようにヒルダに言った。 「はーい」  高価な入れ物にさらに高価な花を入れる。 「ジオテラスまではかなり遠い。今から走るぞ。乗れ」  いつもは嫌がるハズなのにリゲルは自ら自分の背に乗るように促した。  珍しい事もあるもんだなとヒルダはその背に乗る。 「そんなにジオテラスって遠いの?」 「私の足で十日はかかる」 「えぇ、そんなの面倒くさいーーー」 「五月蠅い。街についたら何でも好きな物喰わせてやるから黙ってろ」  ちょっとした旅にいくレベルなのに何の準備もせずにベルンを出てしまった。 「ねぇご飯はどうするの?」 「適当な所で魚でも取ればいい」  そこまでして急ぐ理由がヒルダには当然分からない。 「先生はそのジオテラスに何か用があるの?」 「……アンヘルは顔なじみでな」  先ほど聞いたジオテラスを統治する女性だという事を思い出す。 「もしかして先生の恋人」 「違うわ!」  そうかそうかとヒルダは頷くとリゲルの首元を撫でた。 「まぁそう言う事なら先生のワガママに付き合ってあげようかな」 「ちっ、飛ばすぞ」  ずっと山道を走っていたが、人々の行きかう大きな麓の路に出た。  そこに大きな荷馬車が5台並んでゆっくりと走る。 「あっ、クロイツ運送の馬車だ」 「儲かってるみたいだな」  リゲルに反応してヒルダは言う。 「ぼちぼちでんなー」 「……」  馬車を追い越してリゲルはどんどん走る。  綺麗な水の流れる川を見つけた所で止まった。 「少し休憩しよう。水を飲んで用を足しておけ」 「うん、っておトイレは?」 「その辺でしろ」 「先生っ! 言っていい事と悪い事があるよっ!!」
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