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「まわりこめ! 中々速いぞ!」
リゲルの周りにいる何者かが声をかけあっている。
リゲルは視界の悪い中かなりのスピードで駆けている。それについてくる連中。
「なんだコイツ等……」
リゲルにも焦りが出始め、ヒルダはただしがみつく事しかできなかった。聞こえる声はまだ若そうで、恐らくこの谷を縄張りにしている盗賊まがいの生業をしている孤児達なんだろうなとヒルダは理解した。
「先生、何か食べ物でもあげて逃してもらった方が早くない?」
フンとリゲルは鼻を鳴らす。
「そんな事で通してくれるのは年老いた野犬くらいなもんだ。止まれば途端に身ぐるみ剥がされるぞ!」
「そうかなぁ」
盗賊に襲われているというのに至ってヒルダは冷静だった。
「チッ、疲れるから使いたくなかったんだけどな」
リゲルは大きく口を開けてズゥっと音が聞こえるくらい空気を取り込んだ。
そして走っている身体をユーターンさせると吠えた。
「ガゥウウウ!」
まわりの霧をリゲルが吐く息で吹き飛ばす。
その瞬間、七、八人の子供達の姿が見えた。
みな動物の耳や目をしている獣人。
「貴様等、その首食いちぎられたくなければ大人しく去れぇ!」
リゲルが脅し文句を叫ぶと子供達の中からヒルダと同い年くらいの綺麗な顔をした少年が現れた。
「獣風情が生意気だな。俺はこの霧の盗賊団の団長ガルム」
その少年がそう名乗った時にリゲルの耳がピクりと動いた。
ガルムはターバンを巻いており耳は見えない。
あるいは獣人ではなくただの人間なのかもしれないなとヒルダは思った。
「獣風情とは言ってくれるな。貴様の名前もオオカミだろうに」
リゲルの言葉にガルムはリゲルを睨み付ける。
「五月蠅い。金目の物を置いてとっとと失せろ。それとも俺の毛皮にでもなりたいのか?」
リゲルの背中の上からヒルダはそのやりとりを見ていたが、完全に自分は無視されているなと思って苦笑した。
(男の子はほんと喧嘩好きだなぁ)
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